茶室「八十庵」
かたち 傘のような不思議なかたちは、京都・高台寺にある「傘亭」からヒントを得て作られました。 名前の通り傘が開いたようなかたちをしており、内部に天井はなく、棟から放射状に竹が広がり 屋根となっています。 「八十庵」では放射状の骨組みを踏襲しつつ、実際の傘のように中心に柱を立て、壁を取り払い ました。 外界から切り離された独立した空間でありながら、KCA house の丘から見える、緑豊かな武蔵野 の光景と、爽やかな秋風を感じていただけるように壁を設けず、かつ周りの気配も感じることの ないように屋根の高さを設計しました。 結界的空間でありながら、自然を身近に感じることのできるこの部屋に座ると、不思議な落ち着 きを感じます。 また、傘は古代には魔除けでありました。
つくり 「八十庵」は、釘を一本も使用せず、すべて木組みとわら縄で建てられています。 日本建築の伝統的工法である「継手(仕口)」に興味を持った Kjell Hahn は、独自に工法を勉強 し、ほぞに栓を打ち込み二つの木材をつなぐ方法や、蟻継ぎと呼ばれる接合方法などを取り入れ ました。 また、祇園祭で巡業する山鉾の建築方法で縄だけを使用する「縄がらみ」や、神社の注連縄、農林業での縄の使い方にインスピレーションを得て、自然素材のわら藁で木材を縛り固定する方法 を編み出しました。
そざい Kjell Hahn は鬼石にある空き家や民家を巡り、かつて建物に使用されていた木材を集めました。 「八十庵」に使用されている主な木材は、かつて誰かの家を支えていた柱であり、長年放置され ていた廃材です。 中には 100 年近く前の建物から出たものや、子供の背丈が刻まれたものもあり、木材は町や人々 の歴史をつぶさに見てきたことが感じられます。 打ち捨てられ、いずれ火に焼かれる運命だった木材たちは、きれいに磨かれ、ここに茶室として 再生されました。 かねてより、Kjell Hahn は日本の家のあり方に疑問を抱いてきました。 伝統的な美しい様式が顧みられず、古い家は打ち壊され、空き家はあばら屋になって崩れるまで ほっておかれる。建売りの箱型住宅が並び、昔ながらの建物はその建築技術とともに消え去って 行く・・。 鬼石に居を移して 5 年間で感じてきた町と人々の変遷。 この「八十庵」は、古いものに再びいのちを吹き込み、新たな役割を与えることから作り出され ました。
なまえ 八十庵。 八十=傘。 八十=数の多い事のたとえ。 80=∞
◯ ふたたび、みたび繰り返し生み出されること。
Date: September 2013
Venue: KCA house, Honjo city Saitama
Artist: Kjell Hahn
Photo: Kejll Hahn